昭和30年代はおれの生まれた時代であり、テレビは当然白黒、冷蔵庫や洗濯機も珍しく、ボンネットバスが無舗装道路を砂埃巻き上げながら走っている時代であった。
そんなころおれはおやじに連れられて、近所の焼き鳥屋に出入りしていた。
タバコの煙と焼き鳥の煙。店の片隅に置かれたラジオから流れてくる歌謡曲。テレビでは柏戸と大鵬がぶつかり合い、王貞治が豪快なアーチを連発していた。

この店はいま住んでいる街にある。
昭和レトロを売りにした店で、何度か行ったこともあった。
ハムカツ、揚げシューマイなど、人気の給食メニューもあるし、おでんや焼き鳥などの定番メニューも豊富だが、懐かしいとか楽しいと思ったことはあまりなかったし、正直さほど通いたいタイプの店ではなかった。
しかし。

この写真ではわかりにくいかもしれないが、この店には一般家庭の茶の間のような座席がある。
卓袱台と呼ぶぺき円卓。白黒の14型4脚テレビ。今にも奥の茶箪笥の上に置かれた黒電話が鳴り出しそうな雰囲気だ。
この席はしばらく飾り物だった。
ときおり近くの大学生や常連のサラリーマン数人がワイワイやっていることもあったが、それは彼らのための席ではなく、当然のことながらおれたちに似合う席でもない。
だからその席は「飾り物」だったのだ。
ところが。
先日この店は珍しく大混雑だった。
テレビかなにかで取り上げられたのだろうか、近来まれに見る混雑ぶりだった。
そして。「あの席」にはとんでもない客が迎え入れられたのである。
白いシャツにぺらぺらのスラックス、すでにビールで顔を赤くしている父親とその友人。
母親はここ数年見たこともないおんぶひもで赤ん坊を背負っている。
その周囲を赤ん坊のお兄ちゃんだろうか、3歳くらいの子供が走り回り、部屋のすみに置かれた箒をおもちゃにして振りかざしたりもしている。
そしてその後ろには白黒テレビで「8時だョ!全員集合」が流れているのだ。
子供の声と店のざわめきや歌謡曲や「ウィ~ッス!」のかけ声が渾然一体となり、一気に40年もの時を遡る。
一瞬これは新手のショータイムかなにかだと思ったほどだ。
江古田・吉兵ヱ。
こんな奇跡はもうないかもしれないが「また行きたい」店になった。



禁酒したんちゃうんかいというツッコミはなにとぞご容赦のほどを(爆)